はじめまして。杉山と申します。
私は主に医療現場における人材マネジメントを行っております。
今回はコロナ禍における医療従事者が抱える問題と雇用主としての医療機関が抱えるジレンマについてお話させていただきます。
1.新型コロナウイルス感染症対応病床について
国内の新型コロナウイルス感染症対応ベッド数(※1)は34,943床であり、日本の総ベッド数(※2)の1,641,407 床の2.1%です。すなわち約98%の病床は「新型コロナウイルス感染症患者を受け入れられない」ベッドです。
これは全国で働く医療従事者のほとんどが新型コロナウイルス感染症患者の治療には従事していない事を表しており、多くの医療従事者が新型コロナウイルス感染症と関係のない環境で働いているように見えてしまう数字ですが、それは違います。
2.医療従事者が感じる恐怖
新型コロナウイルス感染症はもちろん、季節性のインフルエンザ、ノロウイルス等は、外部から医療機関や高齢者施設へ持ち込まれ、院内や施設内に感染を広めます。多くの病院で面会制限や業者の出入制限を行うなか、ウイルスを持ち込む最もリスクの高い人間は、そこで働く医療従事者です。医療従事者はいつ自分が持ち込んでしまうかをとても恐怖に感じています。
3.感染リスクの見えない線引き
院内・施設内にウイルスを持ち込ませないためには発熱等の症状がある職員は休んでもらうのはもちろんです。同居家族に陽性者が出た場合も同様です。では、同居家族の、例えば夫の職場で感染者が出た場合はどうでしょうか。娘の学校で感染者が出た場合はどうでしょうか。未知のウイルスであり、専門性の高い医療従事者でも、「正しく怖がる」ことはとても難しい状況にあります。陽性者からどこまでを感染リスクありとし、出勤を控えてもらうかは、医療機関が決めなくてはなりません。
4.第2の医療崩壊
「同居している夫の職場で感染者が出たから。」「感染流行地である大阪へ同居家族が通勤している。」などの万が一の感染を考えて自宅待機等の職員を増やせば、当然現場の業務が回らなくなります。これは新型コロナウイルス感染症による第2の医療崩壊とも言えます。
5.安全と安心を区別する専門性
今、医療機関に求められているのは、エビデンスに基づいた安全の確保です。こちらは厚生労働省が示す濃厚接触者の定義に基づいて、出勤の可否を線引きする必要があります。一方で、医療従事者の「院内に持ち込みたくない。」「自分が発生源となりたくない。」といった感情に対しては安心の提供が求められます。この職員の感情に寄り添った安心の確保に対してPCR検査は非常に有効な手段となっています。
今後、新型コロナウイルス感染症は季節性の流行を繰り返していくという意見も多く出てきました。ワクチン接種が進めば重症者数は減少する思われます。しかし安全の確保と安心の確保は別であることを認識し、医療機関側が出来る限りの工夫が求められます。
※1 厚生労働省
新型コロナウイルス感染症患者の療養状況等及び入院患者受入病床数等に関する調査結果(2021年6月2日0時時点)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/newpage_00023.html
※2 公益社団法人 日本医師会
https://www.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20210120_1.pdf