ハンズオン支援部 喜悦
1.運転資金の借入
前回は、金融機関目線での「運転資本」について説明させていただきましたが、第二回目の今回は「経常的運転資金の合理的な借り方」についてのひとりごとです。
運転資本は「事業継続のために必要不可欠な運転資金」です。こういった経常的に必要な運転資金は、金融機関から借入しておくのも一つの手となります。借入できるかどうかは金融機関の審査結果次第ですが、私の経験から申し上げると審査は通り易かったです。
2.運転資金の借入形態
借入は期間によって、短期(1年以内)・長期(1年超)に分かれ、短期契約では手形割引、手形借入、融資専用当座貸越、一般当座貸越、長期契約では証書借入が代表的な借入形態となります。以下が借入形態ごとの簡単な概略です。
① 手形割引
支払期日前の手持ち約束手形を資金化する手法で、融資審査が短く、比較的通りも良い借入形態です。約束手形がないと利用できない、期限が決められている(支払期日が期限)、金額がこちらで決められない(手形金額=借入金額)といった特徴があります。約束手形を都度差入れする必要があり、手間はなかなかのものです。
② 手形借入
金融機関宛で自社名義の約束手形を差入れする借入形態です。審査結果次第ですが、金額や返済期日は自由に記入することができます。再度借入する際は、申込が必要となりますので、期日で返済した場合はもちろん、余剰が出て期限前返済した後に、返済分を再利用する場合でも、申込審査が必要となる点に手間を要します。
※金融機関によっては限度額を設定(枠)し再申込の手間が省ける場合もありますが、最近はあまり聞かれなくなったような気がします。
③ 融資専用当座貸越
予め借入限度額で融資契約しておき、利用する際は借入限度額の範囲内で自由に借入することができる借入形態です。余剰が出て期限前返済した場合でも、申込審査なく限度額まで再度借入することができ、大変便利です。融資契約期間は1年間ですが、業績に問題がない場合自動更新される金融機関が多く、専用伝票1枚で借入手続できることから、手形割引や手形借入のような煩わしさがない点もメリットです。金融機関によっては取扱していないのが残念な点です。
④ 当座貸越・カードローン
ATMやネットバンクで利用したり、公共料金の引落を自動融資できたりと、利便性の高い商品です。個人向けの商品は数多く存在しますが、法人向け商品は取扱が少ないのが残念です。
⑤ 証書借入
金銭消費貸借契約書を結び借入する借入形態で、長期に亘り分割で返済していく契約です。いわゆる長期借入金で、運転資金は最大10年程度の期間設定が可能です。
3.合理的な借入形態は?
突然ですが、食品を買い物している時に特価品を見つけて思わず購入されたことはありませんか?
当初買おうと思った商品以外の買い物は非計画購買と呼ばれておりまして、小売店舗の皆様は買い物が楽しくなるお店作りに努力され非計画購買の需要喚起に取り組んでおられます。
こういった商品には新しい発見があったり、相場より安く手に入ったりするので買った時の満足度は高く、「お肉が安かったから今日の晩御飯はすき焼きになったわ」などと、家族がほっこりする場面も多いかと思いますが、冷蔵庫に入れっぱなしで最後は廃棄。。。というご経験もあるのではないでしょうか。
安く買えても廃棄となれば購入金額分損してしまったことになります。もっと細かくいえば、そのお金で他の物を買えたかもしれない機会的ロスや冷蔵庫を使用した電気料や、冷蔵庫の場所を使ってしまった保管ロスも。。(細かい話ですみません)
前段が長くなりましたが、必要のないものを買ってしまったために起きるロス。実は借入の世界でも同じようなことが言えるんです。
お金は食品と違い腐って廃棄することはありませんが、金利という費用がかかるため、必要以上に借入することによって、多く費用が発生するという事になります。一体どういうことなのか、簡単な事例でご説明いたします。
【事例 運転資金として毎月1,000万円が必要。但し借入が必要な時期は毎月15日間であとは収入が入ってくるので足りるというケース】
借入形態① 必要な時だけ短期で1,000万円を借入 金利3.000%
借入形態② 長期借入金を利用 毎月返済を考慮し1,500万円を借入 金利1.500%
借入期間5年
ケース1)単純な比較
事例の借入形態①、②を5年間で見た場合の毎月返済額と支払利息を一覧表にすると下表のようになります。
【単純な比較表】 (金額単位:円)
短期借入の場合は、返済後に同額で借入しますので、元金の支払はゼロとし長期借入は毎月返済額の合計を元金支払としております。
単純比較の場合、毎月返済を考慮し少し多めに借入したとしても、トータルの利息支払額は長期借入が少なくなります。
実際、長期借入金には、金利が低くて使い勝手の良い融資制度が数多く揃っておりますので、長期借入を利用されている方も多いかと思われます。
ケース2)経常運転資金を維持した現実的な目線
ケース1の場合、長期借入は月25万円の返済があり、5年で完済となります。自動車ローンのような設備系の借入であれば「完済してスッキリ」ですが、経常運転資金の場合そうはいきません。現実的には、ある程度返済が進んだ段階で、減った分の借入が必要となるでしょう。
ケース2では、減った分を借入していくものとして、比較表を作成してみました。下表をご覧ください。
【経常運転資金を維持した場合の比較表】 (金額単位:円)
長期借入は毎月返済があるため、必要資金より少し多めに借入することがあると思います。また、借入残高がある程度減ってきたら、必要資金を維持するため再度借入する対応も多いと思います。表の②‘は残高が600万円になった時点で、1,000万円を新たに借入するものとして計算しております。
毎月返済を考慮すると、必要資金以上に借入しがちとなりますので、トータルの利息支払額は短期の都度借入よりも多くなります。更に注意いただきたいのが毎月の元金返済額で、借入の本数が増えてくると毎月の返済額も増加し資金繰りに影響します。
複数の借入を一本化するなどして毎月の返済負担を減らすことも可能ですが、制度融資の中には他の借入との一本化が認められないケースがあるため、金融機関担当者から「一旦自己資金で全額返済してください」と突然言われ、びっくりされた方もいらっしゃるかも知れません。
必要のない借入による利息支払ロスを減らすための合理的な借入はズバリ「短期で必要の都度借入する」です。上記事例では短期金利3.000%、長期金利1.500%でのシミュレーションですから、同じ金利であればその差は一目瞭然となります。
4.オススメの借入形態
「短期借入が合理的」にはご理解いただけたかと思いますが、手形割引や手形借入は借入と返済を繰り返すため手間が多くなります。また、カードローンは便利な分「管理」の目が届きにくくなるため、職員に任せるのには不安があります。そこでオススメなのは利便性と管理を兼ね揃えた「融資専用当座貸越」です。
融資専用当座貸越は限度額の範囲で自由に借入金額を決めることができ、借入手続は専用用紙に名前と印鑑を押すだけです。返済は口座からの引落ですので、煩雑な手続きなく「必要な時に、必要な金額で」合理的な借入が可能です。ATMやネットバンクでの利用はできませんので借入用の印鑑をしっかり管理すれば良く、管理の点でも安心感があります。
5.審査をスムーズにするために
では一体どうすれば気持ちよく契約までたどり着けるでしょうか?私の経験談から3つ述べさせていただきます。
① メインの金融機関に相談する
取引がない金融機関に飛び込みで「融資専用当座貸越を申込したい」と相談に行っても警戒されてしまい、思ったように話が進んでいきません。相談する先は売上代金が入金されているメイン金融機関が良いでしょう。確固たる金融機関がない場合はメイン行を作るところから始めるのが近道です。
② 金額は経常的に必要な範囲で
例年例月で経常的に必要な金額を申し込むようにしましょう。単発のものであれば単発の契約を、長期的なものであれば長期の契約を勧められます。
③ 業績を報告する
契約前はもちろんですが、契約後も定期的に業績の報告をしましょう。できる限り四半期毎に、難しい場合でも半期毎に試算表等を提出し金融機関との信頼関係を構築していきましょう。
5.最後に
今回は経常的な運転資金について説明させていただきました。運転資金はこの他に創業・開業時の運転資金やコロナ融資のような減収に備える運転資金もございます。こういった資金は可能な限り長期で、できれば元金据え置き期間を設けて借入するのがベターだと思います。資金の性格に応じて、最も合理的な形態で借入契約できるよう心より祈願いたしまして締めとさせていただきます。ご精読大変ありがとうございました。