病院を長く経営するためには、収益について正しく検討し、黒字経営を目指すための戦略を立てることが基本です。
しかし、実際には赤字経営に陥っている病院が多く、経営の際は運営状況について正しく分析し、改善に落とし込んでいくことが求められます。
今回は病院の収益や経営状態を正しく分析し、効果的に収益を上げるための方法を解説します。
病院経営において収益を出すには、患者の流入を増やし治療件数を増やすことが主として挙げられます。
この収入から医療機器や医薬品、病院経営に必要な人件費を捻出し、その差額が収益として確定されます。
つまり収入を増やすための患者の流入の増加や病床使用率の向上はもちろん、病院経営に必要な経費の見直しを行うことが、病院収益を上げるうえで重要なことです。
病院経営における主な収益源は以下の2つです。
・保険診療:保険診療で受けられる診療報酬(国で料金が統一されている)
・自由診療:保険診療外で受けられる治療代金(病院が任意で料金を決められる)
保険診療か自由診療かは治療内容により変動します。
特に病院の場合、収益源は保険診療が中心であり、請求できる料金は国で統一されているため、決まった収益額から経費を捻出する必要があります。
保険診療の診療報酬は2年に1回見直しが行われていますが、患者流入を目的に設備やホスピタリティの向上に経費を割けば、収益は減ってしまうでしょう。
つまり患者にとっての居心地の良さを重視したり、新しい医療設備の導入に費用を使えば使うほど、病院経営は苦しくなるといえます。
さらに設備を揃えても患者が少なければ収益は限られるため、2021年の報告では日本国内の病院全体の46%が赤字経営に陥っているとの報告もあります。
参考:全日本病院協会|新型コロナウイルス感染拡大による病院経営状況の調査
病院の収益について検討するなら、収益向上に成功している医療機関のビジネスモデルを検討することから始めましょう。
以下では日本の病院収益ランキングTOP3を紹介します。
当記事では2019年度の売上ランキングをもとに収益をランキング化しました。
収益拡大に成功した要因についても触れているため、病院の収益にお悩みの方は合わせてご覧ください。
医療法人徳洲会は日本国内でもトップクラスの病院グループであり、全国の医療法人と連携して運営エリアを拡大化させています。
病院のM&Aに力を入れており、豊富なノウハウにより病院経営はもちろん、介護事業や診療所経営にも参入しています。
2020年には全国71もの病院を運営しており、売上も3,000億円を突破。
「いつでもどこでも最善の医療を受けられる社会」であることを目指し、さらなるグループ拡大を進めている医療法人です。
・2019年度の売上額:約2,272億円
・運営エリア:大阪府(ほか全国にグループを展開)
医療法人沖縄徳洲会は徳洲会グループの1つであり、2021年には医療法人徳洲会に統合されました。
沖縄を中心に病院をグループ経営しており、グループ傘下にある中部徳洲会病院は、沖縄本島で広く親しまれている24時間診療の病院として知られています。
・2019年度の売上額:約1,200億円
・運営エリア:沖縄県
埼玉県を中心に、関東圏で広く病院をグループ経営している医療法人社団愛友会。
医療法人社団愛友会は地域密着型の病院であることを経営理念としており、24時間の診療体制と医療設備・医療技術の向上を大切にしています。
・2019年度の売上額:約670億円
・運営エリア:埼玉県(ほか関東圏を中心にグループを展開)
売上をはじめトップクラスの収益力を持つ病院には、以下のような特徴があります。
・グループ経営で運営ノウハウや医療設備・人件費を一元管理している
・病床稼働率や人件費率など数字から経営状態を検討・刷新している
・コロナ禍をはじめ昨今の需要に合わせた受け入れ態勢を構築している
売上トップクラスの病院は医療法人グループとして複数の病院を広い範囲で経営しています。
グループ経営は病院のブランディングにはもちろん、医療設備や医療従事者を一元管理しており、病院経営における成功モデルを広く導入しています。
また病床稼働率や人件費率など、病院経営において収益に直結する数字を見直すことも収益の黒字化において重要です。
コロナ禍をはじめ病院利用における需要に対応した患者の受け入れ体制を築くことも、病院の収益に大きく関わるため、医療業界における需要を検討することも、経営において欠かせないことだといえます。
数字の面で見ると、トップ病院をはじめ黒字経営の病院と赤字経営の病院では以下の違いが存在します。
黒字経営の病院 | 赤字経営の病院 | |
人件費率※ | 55.4% | 62.7% |
病床稼働率※ | 76.2% | 71.4% |
数字で見ると黒字経営と赤字経営では数%の差に見えますが、病院経営における収益はこのわずかな差が大きな収益差に繋がります。
もちろんその時々の社会情勢や需要に合わせて検討するべきことは異なりますが、収益改善戦略を練るうえで検討したい課題が、以下の項目です。
・人件費の見直し(収益に対する人件費率を下げる)
・病床稼働率の見直し(病床稼働率を上げる)
・業務効率化(人件費削減や医療従事者の生産性向上)
病院収益の中心となる保険診療は料金が明確に定められているため、経費や人件費の面から検討していくことが重要です。
人件費は簡単には下げられないからこそ、経費について慎重に検討し、より効果を期待できる方法から実際の運営方法に落とし込んでいくことが成功のポイントだといえます。
病院の収益をアップさせるには、経費や人件費を抑えるうえで役立つ経営戦略を取り入れていくことが重要です。
ここでは病院の収益アップに役立つ具体的な改善方法を、3つのアプローチ方法で紹介します。
病院収益を改善するうえでまず検討したいのが、以下3つの項目です。
・病院の経営実態を正確に把握し刷新する
・古くからの慣習や業務システムが非効率でないか検討する
・地域の需要やニーズに合わせた病院機能の見直しを行う
病院経営や医療機関に求められる診療内容・サービスは時代の移り変わりに応じて変化します。
また技術革新により、従来は人件費をかけて行わなければいけなかった業務も、デジタル化により時間・経費を減らせる可能性があります。
病院の収益状況を改善するため、まずは今の経営状態や改善できる業務内容がないか検討することから始めましょう。
病院の収益は報酬額が決まっている保険診療が中心のため、設備管理費や人件費から見直すことが大切です。
・医薬品や設備の管理をシステム化する
・適切な給料システムや雇用人数について再検討する
人件費や管理費を抑えられるITシステムを導入するほか、人件費や給料制度の見直しも重要です。
ただし軽率に給与やボーナスをカットすれば、従業員の不満が募り、優秀な人材が他の病院に移ってしまう恐れがあります。
そのため給与面を検討する際は、古くからの年功序列制度から検討し新たな評価制度を導入することから始めるのも選択肢の1つです。
保険診療は診療内容ごとに報酬の請求額は決まっていますが、患者数が増えれば収益性を高めることは可能です。
そのうえで役立つのが、外来診療の増加と外来患者対応における人件費の削減です。
・WEBサイトやSNSを使った広告を打ち出し認知度を高める
・WEB予約システムの導入により来院管理をシステム化する
病院をインターネット上で検索する方は増えているため、WEBサイトやSNSを使って病院の認知度を高められれば、患者数増加を目指せます。
またWEB上から直接来院予約が取れるようにすれば、患者の利便性が高まるだけでなく、予約管理における人件費を削減する点でも役立つでしょう。
病院の収益性を高めるうえで検討したいのが、新たな時代に即した診療体制を用意することです。
なかでも検討したい市場として、介護事業や包括ケア・在宅診療への対応が挙げられます。
高齢化が進む昨今、介護事業への参入は非常に大切です。
特に少子高齢化が深刻な地方では介護病棟を増やすほか、包括ケア病床を導入するなど、地域に根差した診療体制で病床稼働率を高める方法が挙げられます。
また病床の管理費を抑えるため、在宅診療に対応するのも選択肢の1つです。
病院の収益を上げる方法として、治験や血液透析をはじめとした専門性の高い診療に対応する方法もあります。
血液透析をはじめ対応している医療機関が限られている診療項目に対応すれば、近隣住民だけでなく広範囲から患者の流入を期待できます。
さらに治験協力にも対応すれば、専門病院として患者や治験協力者の流入増加も可能です。
近隣だけでなく、遠方からも患者の来院を見込める病院として認知度が高まれば、患者流入による収益性の向上を目指せるでしょう。
病院は地域に欠かせない施設である一方で、国内では半数近い病院が赤字経営に悩まされており、病院の収益性について戦略的に検討することは非常に大切です。
特に病院の収入は国により料金が定められている保険診療が中心のため、人件費や経費など、支出の面から収益性を向上させる戦略を立てましょう。
しかし、なかには収益性向上においてどこから見直すべきなのか、課題や改善策の見直しが進まない経営者の方もいるのではないでしょうか。
その場合は、MMCコンサルティングでの経営相談をおすすめします。
MMCコンサルティングでは病院経営に関する豊富なノウハウを持つアドバイザーが依頼を受けた病院に直接赴き、課題の検討・改善点の提案を行っています。
病院経営に関するフォローを幅広い手法で行っているため、病院経営や収益力向上にお悩みの方は、メール相談からご利用ください。