病院の赤字経営の深刻化や事業継承の難化に伴い、医療法人のM&Aを進めるケースが増えています。しかし医療法人のM&Aはスキーム(計画)を具体化し戦略的に進めなければ、手続き上の課題やコストが想定以上に掛かってしまい、M&Aが頓挫してしまう恐れがあります。
そのため医療法人のM&Aは、スキームを明確化するとともに専門の仲介会社やアドバイザーを頼り、スムーズに進める戦略を立てることも視野に入れて進めましょう。今回は医療法人のM&Aスキームについて具体的に紹介するとともに、M&Aにおける課題や戦略について具体的に解説します。
医療法人のM&A(買収合併)は、社会情勢の変化に伴う赤字経営の深刻化や後継者不足により増加傾向にあります。M&Aを戦略的に進めれば、病院経営における以下の課題の解決を目指せます。
・赤字経営の陥っている医療法人の経営再建
・医療法人の後継者不足の解消
・地方医療における閉院の回避や医療体制の維持
日本国内の医療業界では赤字経営の深刻化が続いており、医療法人のおよそ7割が赤字経営に陥っているとの報告も存在します。また少子高齢化や医師免許取得の難易度の高さも合わさり、後継者不足や医師不足も慢性化しています。
しかしM&Aを進めれば、病院の黒字経営におけるノウハウを持つ医療法人に運営を委託できるほか、包括的な病院経営が叶い、後継者不足にも対処可能です。地域住民に提供できる医療体制を維持したまま病院運営を譲渡することも目指せるため、M&Aは地域医療においてもメリットのある手段だといえます。
そもそも医療法人のM&Aとは、病院経営や医療法人としての運営体制を、ほかの医療法人や財団・社団が買収し、経営を引き継ぐことを指します。一般企業や株式会社でもM&Aの概念は存在しますが、特に医療法人においては手続きやルールが複雑であり、スキームを明確化するには専門家やM&A仲介会社の手を借りる方法が一般的です。
特に医療法人のM&Aにおいて慎重に検討しておきたいのが、以下の課題です。
・医療法人の適正な買収価格の評価
・買収する医療法人の将来性や収益性
・病院経営や買収における法制度や手続きルール
・資産の所有権や従業員の引き継ぎ・契約内容
医療法人は業界全体で赤字経営の深刻化が問題視されているからこそ、買収時の評価価格や収益性・将来性については慎重に検討する必要があります。また買収する病院の従業員や設備・診療内容をどれだけ引き継げるかは、買収後の病院の運営コストに直結するため、あらかじめ明確化したうえでM&A契約を進めなければいけません。
医療法人のM&Aは「ただ買収するだけ」ではかえって負債を抱える結果にもなりかねないため、慎重に検討してスキームを明確化していくことが大切です。
医療法人のM&Aにおける基本的なプロセスについてご覧ください。
・M&A仲介会社等を介して買収について相談する
・買収先とマッチングのうえ、買収先を選定する
・機密保持契約を交わしたうえで、詳細な条件を交渉する
・基本合意が整ったら、病院の買収価格や収益性を検討する
・買収先の病院の価値を詳細に評価する(デューデリジェンス)
・最終交渉のうえ、買収契約を締結する
・M&Aを成立させる(クロージング)
医療法人のM&Aは手続きが複雑なだけでなく、法人同士では交渉がスムーズに進まないため、専門の仲介会社やアドバイザーを介して進められます。手続きや交渉は時間が掛かる場合もあるため、スキームを明確化して段階ごとに交渉を進めてください。
医療法人のM&Aを成功に導くため、フレームワークに以下2つの課題解決を盛り込むことが大切です。
・買収先の医療法人の純資産や収益性を明確化する
・買収先の病院を黒字経営に導くための課題や改善点を検討する
日本国内では病院経営の赤字が深刻化しているからこそ、M&Aにおいては医療法人の資産価値を明らかにする必要があります。
また、黒字経営を目指すには病院の収益性や将来性をふまえ、どのように運営すれば安定した経営体制を目指せるか検討する必要があります。病院の経営スキームは買収後ではなく、買収前から具体的に検討してM&Aするか否かを検討することが、成功の秘訣です。
医療法人のM&Aにはコストや時間が掛かるため、スキームを明確化させて進める必要があります。そのためにはM&Aの仕組みそのものへの理解を深めておくことも忘れずに行いましょう。以下からは医療法人のM&Aにおけるコストや時間、リスク管理のポイントについて解説します。
医療法人のM&Aにおいて、基本的には買収額を最初にコストとして検討する必要があります。医療法人のM&Aにおける買収コストは、基本的に「時価純資産額」をもとに検討し、加えて病院の営業権を資産化して評価します。
ただし買収額の評価方法にはさまざまな手法があり、その病院の患者からの評価や有名医師の在籍の有無、治療実績を金銭的に評価する場合もあります。どのような手法で買収額やコストを検討するかは医療法人同士の交渉によっても変わるため、慎重に検討したうえで正当なコストを求めることが大切です。
医療法人のM&Aに掛かる期間は半年〜1年が目安です。M&Aにおける買収価格の評価や条件交渉、引き継ぎの準備には膨大な業務が発生するため、買収に慎重になればなるほど、期間も長引きます。
場合によっては買収先の選定から交渉成立まで、2年以上掛かる場合もあるため、医療法人のM&Aは計画的に進める必要があります。
医療法人のM&Aには、不正請求や過誤請求など買収価格の適正化がうまくいかない場合があることが、リスクとして挙げられます。また事業継承に伴う医療従事者や従業員の合意が得られず、買収後に離職してしまい人手不足に陥ったり、多額の雇用コストがかかる場合もあるためリスク管理と予防策・対処法も検討したうえでM&Aに踏み切る必要があります。
M&Aにおけるリスクに対する予防策や対処法の一例をご覧ください。
・病院設備の不備や不正請求がないか慎重に調査したうえでM&Aを検討する
・医療従事者や従業員の労働条件や勤続年数の通算について明文化して離職リスクを防ぐ
M&Aが成立しても、買収した病院に秘匿された不備や従業員のモチベーションの低下があれば、買収した病院がかえって負債となってしまいます。それらのリスクを防ぐためにも、医療法人M&Aの際は、リスク管理と予防を徹底したうえで具体的なスキームを立てましょう。
医療法人のM&Aにおける失敗例として、以下が挙げられます。
・仲介業者を利用しなかったため、M&Aの交渉が頓挫してしまう
・医療法人の廃業手続きに手間取り、引き継ぎが進まない
・監査から漏れた負債があとから発覚して、訴訟問題に発展してしまう
買収する側・される側の信頼関係や合意があったとしても、M&A仲介業者やアドバイザーを介して交渉を進めなければ、M&A計画がかえってトラブルに発展してしまうリスクがあります。膨大な手続きに想定外に手間取ってしまったり、あとから負債が発覚して訴訟問題に発展するケースも存在します。
特に病院は、周辺地域の患者を流入できるかどうかが収益に直結します。M&Aトラブルや負債の発覚は、不祥事として噂が広がり収益低下に繋がる恐れもあるため、M&Aは専門家の手を借りて計画的に進めなければいけません。
医療法人のM&Aの失敗例から得られる教訓として、豊富な知識やノウハウを持つM&A仲介会社やアドバイザーを介して行うことが挙げられます。そこで検討したいのが、医療法人M&Aをトラブルなく成立に導いてくれる適切なアドバイザーやパートナーの選定です。
医療法人M&Aにおける適切な仲介会社やアドバイザーを選ぶポイントをご覧ください。
・医療法人のM&Aに特化している
・医療法人のM&Aに関して豊富なノウハウや実績がある
・M&Aにおける医療法に則った引き継ぎや行政手続きのサポートを受けられる
医療法人のM&Aは、一般企業のM&Aとは別物で手続きも複雑であるからこそ、M&A交渉だけでなく手続きについても相談できるアドバイザーを選ぶことが大切です。
医療法人のM&Aにおける成功事例を紹介します。
脳外科神経外科をはじめとした高度医療を提供している医療法人Aと、地域医療と救命救急を中心に医療提供する医療法人Bは、ともに施設老朽化や将来的な地域医療の需要変化に課題を抱えていました。そこで医療法人A・Bは、統合再編という形で新病院を設立しました。新病院設立により施設老朽化の課題を解決するとともに、将来的な需要拡大を見込める在宅医療に対応した新施設も展開することで、さらに地域に根ざした医療提供の実現に成功しています。 |
医療における需要の変化や施設の老朽化は、あらゆる医療法人が検討するべき課題です。紹介した成功事例では、異なる分野で強みを持つ医療法人が統合再編という形で新たな病院施設を設立し、両院にメリットのある形で課題の解決に成功しています。
さらに少子高齢化をはじめとした将来的な医療需要を見越した診療項目の拡大も行っています。これにより、地域医療にさらに密接に寄り添う施設として、安定した運営体制と収益性が確立されました。
医療法人のM&Aはスキームを明確化し慎重に進めなければ、交渉が頓挫してしまったりトラブルに発展するリスクもあります。そこで重要なのが、医療法人のM&Aに特化した仲介会社やアドバイザーを介してM&A計画を進めることです。
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