病院は公共施設としてなくてはならないものであるため、非営利での運営のみ認められています。そのため基本的には企業や株式会社などの営利組織が病院経営することは認められていませんが、組織構造を整えれば、企業が病院を経営することは事実上可能です。
しかし病院は国内の8割近くが赤字経営に陥っているため、企業が病院経営する際は、市場の動向を把握し成功に結びつけるための戦略を立てる必要があります。今回は、企業が病院経営を成功させた事例や戦略とともに、効率的に企業立病院を経営するポイントについて解説します。
企業立病院の現状と市場の動向について解説します。業界の現状や将来的な展望についても紹介するため、企業立病院の経営に興味がある方はぜひ参考にしてください。
基本的に、企業や株式会社が病院経営することは原則的にはできません。病院は公共施設としてなくてはならないものであり、運営にあたって営利性が認められていないためです。しかし運営体制や組織構造を工夫することで、事実上は企業が病院経営に乗り出すことは可能です。
例えば大企業が社員の福利厚生を目的に病院を設立することは、例外的に認められています。また病院経営にあたって、企業が自社の意思や経営方針を代弁する人員を立てて、非営利団体として病院を設立すれば、間接的に企業が病院を経営することは可能です。
近年特に増えているのが、企業(営利団体)が病院に出資する資本業務提携です。資本業務提携を行えば、企業・病院は独立したまま必要に応じた共同経営を望めます。
例えば医療法人とIT企業が資本業務提携を結べば、企業側はIT技術を組み込んだ医療システムの開発・試験運用がスムーズなだけでなく、社員の福利厚生を充実させる点でもメリットがあります。病院側から見てもITシステムの導入がスムーズとなるほか、企業の従業員が患者として流入するなど、まさしくウィンウィンの関係を築けるでしょう。
企業による病院経営を成功させるため、まずは企業立病院の成功事例をご覧ください。以下からは企業立病院の成功事例とともに、成功した要因と経営戦略について紹介します。
地方都市に病院を構える医療法人Aは、慢性的な赤字経営により経営破綻に陥っていました。そこで保険事業を行っていた企業Bは病院経営と医療業界での事業拡大に乗り出すため、医療法人Aの土地と不動産を買収することで、事実上の医療法人買収を果たしました。
医療法人は非営利性を担保するため、基本的には営利組織による開設や直接的な運営は認められていません。そのため企業Bは医療法人Aと協議のうえ、土地と病院を医療法人に貸し付けるリースバック方式での買収がなされました。
これにより医療法人Bは企業Aから資金調達を行いながら病院経営を継続でき、企業と医療機関の双方に利のある買収に成功したといえます。
企業による病院買収と経営が成功した要因として、以下が挙げられます。
・土地と不動産を譲渡(リース)する形での買収
・病院買収が企業の事業拡大に利のある形で行われた
病院は企業をはじめとした営利組織による経営が認められていません。しかし法人が病院組織に出資したり、土地や不動産を買収することは可能であるため、紹介した事例では土地と不動産を押さえる形で、事実上の買収を行っています。
事例における企業Bは保険事業を行っており、医療福祉業界への事業拡大を画策していました。そのため病院の買収により事実上の病院経営に参画することで、スピーディに医療業界への事業拡大が成功したといえます。
企業立病院を経営するうえで必要なのは、綿密な戦略設計と実現です。以下からは企業立病院の経営を成功に導くための、戦略設計のコツについてご覧ください。
企業による病院経営を成功させるため、まずは設立した病院の基本的な経営方針について検討しましょう。企業が病院を設立する主な目的として、以下が挙げられます。
・企業で働く従業員の福利厚生を充実させるため
・医療業界への事業拡大を目指すため
企業が病院経営に乗り出す目的にはさまざまなものがありますが、その際に経営目的を明確にしておくことは、経営方針を立てるうえで非常に大切です。基本方針を明らかにすれば、目的を果たすために必要な組織構造やより利のある立地や買収の必要性、必要な病床数や診療科目が明らかになります。
病院を設立経営するには、以下3つの柱が必要です。
・人材:病院経営には1人以上の医師免許保持者が必要である
・資金:病院施設や医療設備、当面の維持費を確保する必要がある
・技術:著名な医師の在籍や需要が高い診療科目への対応が可能である
病院を新設する場合、人材や資金、技術を確保する必要があります。さらに医療法人の設立には都道府県知事の認可が必要であるだけでなく、非営利で経営することが明らかであるよう専門家とよく相談しながら設立手続きを進めなければいけません。
対して医療法人を買収する形で企業による病院経営を進めるのであれば、既存の病院や設備体制をそのまま引き継げるため、経営方針に合致した病院があれば買収を検討するのも選択肢の1つです。人材や資金、技術の確保の必要性や、具体的にどのような人員や設備が必要であるかは、経営の基本方針や設立方法に基づいて検討してください。
企業立病院の経営には相応のリスクも伴います。ここでは病院経営におけるリスクとその対処法について解説します。
・赤字経営に陥ってしまうリスク
・病院に対する需要や必要な病床数の移り変わり
・規制や認可取り下げの対象とならないための体制づくり
・閉院時の財産の帰属先
医療法人は8割にも登る団体が赤字経営に陥っており、病院経営は苦しい状況に追い込まれていることも事実です。そのため企業が安易に病院経営に参入しても、かえって負債を抱えてしまうリスクがあります。
また病院は非営利経営が求められるため、企業立病院は規制や認可取り下げの対象となるリスクも存在します。より良い医療提供のため企業が病院施設を拡充することが規制対象となり、譲渡や閉院を余儀なくされる場合もあるため専門家とよく相談しながら経営することが不可欠です。
特に病院は平成19年4月以降の設立は出資持分ありでの設立が認められなくなりました。つまり持分なし病院の財産は、閉院時に国へと帰属され出資者や経営者の持分ではなくなるため、新設の際は慎重に検討する必要があります。
・従業員の離職リスクを減らすため福利厚生を整える
・需要のなくならない診療科目に対応する
・設立地域の医療に関する需要をこまめに調査する
・周辺の医療機関と密に連携できるよう体制を整える
・医師法や病院経営におけるルールをこまめに確認する
病院経営において何より注意したいのが、経営破綻のリスクです。病院は苦しい経営状況に追いやられている施設も多く存在するからこそ、需要の高い医療を常に提供できる病院を目指す必要があります。
特に周辺の医療機関と連携して医療提供を行えるようになれば、各病院が強みを活かして患者に必要な医療を提供できるでしょう。またより良い病院経営やルールに則った企業立病院の設立を進めるため、法律や病院経営の専門家やアドバイザーの手を借りるのもおすすめです。
企業立病院の経営における理想形は「病院が安定して黒字経営を続けられる」「病院経営が企業の事業拡大などに繋がる」など、病院と企業双方に利のある形で運営できることです。そのために検討したい課題が、以下の3つです。
・利用者や地域住民により良い医療を提供できる病院である
・規制の対象とならず法に則った病院経営を継続できる
・運営元の企業の事業拡大に繋がる連携体制が取れる
企業立病院の経営を効率的に成功させるには、病院と企業の連携体制や病院経営の軸となる方針を立てて、具体的に経営戦略を立てることが求められます。しかし病院経営は一般的な企業経営とは異なり、医師法に則り非営利性を保ちながら経営する必要があります。
そこで検討したいのが、専門のアドバイザーや病院経営に関する豊富なノウハウを持つコンサルティング企業を頼ることです。アドバイザーを頼れば、医師法や病院経営に関するルールはもちろん、安定した病院経営を目指すノウハウまで幅広く相談できます。
企業立病院の経営を成功させる具体的な戦略を立てる手順についても相談できるため、病院経営や医療業界への参入を計画しているのであれば、病院経営専門のアドバイザーの利用も検討してみてください。
企業立病院の経営は安定した黒字運営を目指すための経営戦略を立てることはもちろん、取り締まりの対象とならないよう医師法に則った経営体制を整えることも大切です。非営利性を担保しつつ、企業にとっても利益のある病院経営を目指せるよう、綿密に計画を立てて病院経営に乗り出しましょう。
病院経営にお悩みなら、MMCがおすすめです。MMCは病院経営に関する豊富なノウハウに基づき、病院の経営立て直しや買収戦略の提案を行っています。企業立病院の経営についても相談を受け付けているため、経営戦略にお悩みなら、ぜひメール相談からお問合せください。