病院を譲渡する際には、膨大な手続きと引き継ぎ準備を進めなければいけません。そのためには必要な物品や書類の手配も必要なため、ときには譲渡が決まっても手続きだけで数ヶ月〜1年を要する場合もあるでしょう。
病院譲渡において必要な手続きや物品の手配をスムーズに進めるうえで大切なことは、譲渡における手続きの流れを把握し事前に必要なものを準備しておくことです。本記事では、病院譲渡に必要な手続きと物品について、一覧で解説します。
病院譲渡においてまず知っておきたいのが、病院譲渡の基本的な流れと必要な手続きです。病院譲渡のプロセスや法的要件、譲渡価格の評価方法について解説します。
病院譲渡における基本的なプロセスは以下の通りです。
・病院譲渡やM&A専門の仲介会社に相談する
・譲渡相手となる病院や医療法人を探す
・実際に譲渡相手と交渉し具体的な譲渡条件をすり合わせる
・デューデリジェンスを行う
・最終調整のうえ病院継承に関する契約を締結させる
・継承内容に応じて買取価格や成功報酬を支払う
・行政手続きをしてクロージングする
病院の譲渡では慎重な交渉と譲渡価格の算定が必要であり、ときには認識の相違や情報の共有不足から、トラブルに発展する恐れもあります。そのため病院譲渡は専門の仲介会社を挟んで進めることが一般的であり、1〜2年じっくり時間をかけて交渉し、譲渡条件を検討していくことが大切です。
交渉や合意後の行政手続きには、必要な書類や確認しておくべき物品が多数あります。必要なものをすぐに出せるよう準備していなければ、病院譲渡における交渉はさらに長期化するでしょう。
病院譲渡に必要な法的手続きとして、主に以下が挙げられます。
①病医院の廃止届(保健所)
②保険医療機関の廃止届(厚生局)
③定款(寄附行為)変更認可申請(都道府県知事)
そのほかさまざまな書類を、各機関に提出する必要があります。各手続きはただ書類に記入して提出するだけでなく、本人確認書類や医師免許証、病院の施設概要書など膨大な書類を添付する必要があるため、ときには添付書類を揃えるだけでも時間がかかる可能性もあります。
病院の診療科目や譲渡相手との関係性によって必要な書類は変わるため、必ず確認のうえ必要なものを揃えて手続きを進めましょう。
病院の譲渡価格を算定するうえで必要な評価基準は、時価純資産法を用いて算定する方法が主流です。
時価純資産法では、病院そのものの金銭的価値と3〜5年分の収益(営業権)をふまえて譲渡価格を算定します。
・病院の譲渡価格 = 時価純資産 + 営業権(3〜5年分)
・時価純資産:病院の設備や建物の金銭的価値をもとに算定
・営業権 :年倍法を用い3〜5年分の病院の収益力をもとに算定
適正な病院の譲渡価格を算定するには、時価純資産と営業権の金銭的価値を正しく検討する必要があります。そのためには譲渡する側が病院の資産状況を明らかにすることはもちろん、買収する側が時間をかけて調査を行うことも大切です。
病院譲渡では交渉や手続きを進めていくなかで、必要なものも多数存在します。病院譲渡における各手順で必要なものについて解説します。
譲渡前に必要な準備として、譲渡相手とスムーズに交渉するために必要なものを用意しておくことが大切です。
・交渉に必要な機密保持契約書や基本合意書
・病院の経営状況がわかる決算書や固定資産台帳など
・設備のリース契約書や建物の賃貸借契約書など
・医療法人としての経営実態がわかる役員名簿や医療法人概要書
・従業員の名簿や就業規則
また譲渡契約に際して、病院の実地調査をする必要があるため、書類はもちろん立ち入り調査を想定して準備や従業員への情報共有を進めておくことも大切です。
病院の譲渡契約では、譲渡相手との交渉はもちろん行政手続きも必要です。
・行政手続きに必要な添付書類を用意しておく
・譲渡相手の医師や経営陣同士で見学や面談を行う
・報告内容に不備や漏れはないか念入りに調査する
基本的に、病院の譲渡契約が締結されれば譲渡はもちろん譲渡金額や条件も確定します。締結後に問題や不備、調査不足が発覚すればトラブルに発展する恐れもあるため、面談や調査は念入りに進めなければいけません。
病院譲渡における調査や面談は念入りに時間をかけて行ったうえで、実際の譲渡契約に進みましょう。
病院譲渡における双方の合意が取れたら、譲渡契約を締結し行政手続きを進めます。
・譲渡契約書を締結させる
・譲渡する側・される側がそれぞれ行政手続きを進める
・従業員に不安や不信感を残さないよう丁寧に説明する
譲渡契約書の締結や行政手続きの際は必要なものを揃えておくことが、スムーズな病院譲渡と役員交代に繋がります。また従業員は病院の譲渡や役員交代に不安を覚えて退職する恐れもあるため、就業規則や働き方がなるべく変わらないよう配慮したうえで、その旨を明らかにできるよう周知させることも欠かせません。
必要な書類や行政手続きについては以下でさらに詳しく解説するため、合わせて参考にしてください。
病院譲渡における交渉や行政手続きでは、さまざまな書類が必要です。ここでは病院譲渡において必要な書類を、種類ごとに解説します。
・医療法人としての事業計画書・診療科目や事業内容を記した事業報告書・収益性や地域での医療需要を記したマーケティング施策資料 |
病院譲渡における交渉では、譲渡する病院の経営状況や事業内容がわかるものを用意し、買い手側に病院の経営状況を正確に共有する必要があります。綿密に調査した事業計画や事業報告は、買い手側が買収する病院を検討するためにはもちろん、買い手の信頼を得るうえでも役立ちます。
譲渡する病院の将来性や収益性を検討し、譲渡後の病院の経営戦略を検討するうえでも必要な資料のため、必要不可欠なものだといえます。
・開院の際に用意した登記簿謄本や約款・出資者や院長、役員の組織図や名簿・譲渡や役員交代における議事録・新旧理事長の辞任届や就任承諾書・保険医療機関(保険薬局指定)の申請書 |
組織関連書類は譲渡する病院の組織構造について伝えるためにはもちろん、病院の譲渡契約後の行政手続きにも必要です。病院譲渡における議事録や役員交代における届出書類は、病院譲渡における行政手続きでも添付の必要があります。
・病院経営における決算書類一式・財務状況を明らかにするために必要な試算表や総勘定元帳・建物や医療設備の賃貸契約書やリース契約書・譲渡前に使用していた会計ソフトと仕様書・病院経営における請求書や明細記録・病院の経理業務マニュアル |
財務関連書類は病院の経営状況や収益性を共有することはもちろん、スムーズな病院経営の引き継ぎにおいても必要な書類です。決算書類や総勘定元帳は、引き継ぎ後の正確な経理や税務においても必要なものです。譲渡後の経営や財務に関する業務に支障を来さないためにも、必ず共有しましょう。
・施設や建物の図面(案内図、平面図)・病院(診療所)施設の概要書・保有している医療機器や設備のリスト・保有設備の点検や保守に関連する機能・メンテナンス計画書やマニュアル |
引き継いだ設備や医療機器を運用していくために必要な設備関連書類は、譲渡後の病院運営に必要なものです。特に病院の図面や施設概要書は、譲渡における行政手続きの1つである保険医療機関申請や医療法人の開設届の提出に際しても添付が必要な書類です。
・従業員の育成マニュアル・従業員のシフト表・病院経営陣の組織図 |
従業員をどのような規則で配置しているのか、どのような労働条件で働いているのか共有するため、人事関連書類も必要です。特に病院経営に携わる院長や役員の組織図は、医療法人の変更登記申請において必要な場合もあるため、合わせて用意しておきましょう。
・従業員の雇用契約書や就業規則・源泉徴収簿・従業員の退職金や社会保険に関する規定 |
従業員が安心して働き続けられる環境を整えるため、雇用契約書や就業規則についても譲渡相手と共有しておく必要があります。もちろん譲渡に伴う従業員の不安を払拭するために必要なことは、就労規則などの共有や引き継ぎだけではありません。
病院の実地調査やヒアリング、譲渡後の就労規則に関する周知も徹底したうえで、従業員のケアを進めることが大切です。
・病院の患者数や病床稼働率の記録・医薬品や消耗品の管理記録・患者のカルテや診療内容・診療による過去の収益(売上)データ |
病院の患者データやカルテ、診療データは譲渡後の経営管理に欠かせません。病院の収益性や将来性を検討するため稼働率や売上を共有することはもちろん、譲渡後の病院運営にも必要なデータです。
病院譲渡では、譲渡相手と病院の経営状況について正確に情報共有するためにはもちろん、行政手続きをスムーズに進めるためにも、必要なものをあらかじめ揃えておくことが大切です。必要なものを揃えておくことは譲渡相手の信頼を得ることにも繋がるため、計画的に用意しておきましょう。
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