事業承継と事業継承は、いずれも事業を引き継ぐことを指しますが、それぞれ異なる意味合いで使われます。似た意味合いを持つ言葉だからこそ、仲介会社への相談や交渉の場で誤解を生まないよう、違いや使い分けについて押さえておきましょう。
当記事では事業や医療提供における承継と継承の違いを解説します。使い方や使用シーンについても触れているため、事業の売却やリタイアを検討している方はぜひ参考にしてください。
事業承継と事業継承は厳密には異なる意味を指します。まずは承継と継承の具体的な意味について、それぞれ解説します。
承継とは他者から地位や考え方を引き継ぐことを指します。基本的に承継は地位や考え方など、形のないものを引き継ぐときに使うことが多く、引き継ぐものの内容もさまざまです。
・事業やビジネスそのもの
・事業における役職
・思想や経営理念
基本的には形がなく、双方の合意があれば引き継ぐことが認められるものがほとんどです。病院やクリニックを承継する場合は、医療提供における方針や理念、医療事業そのものを指します。
継承とは、身分や資産、事業における権利などを引き継ぐことを指します。主に形があるものや公的機関の認可や申請が必要なものが中心です。
・金銭や不動産などの資産
・経営権や事業運営における特権
・事業運営における義務
資産や特権はもちろん、事業運営における義務も引き継がれます。病院やクリニックの継承では、建物や設備そのもののほか、医療提供における特権や公的機関からの認可、医療提供に伴う義務を引き継ぐこととなります。
事業承継と事業継承は、意味の違いをふまえて使えば、いずれも正しい言葉です。承継は事業そのものや企業理念を、継承は資産や特権と、それぞれ引き継ぐ内容が異なるため、引き継ぐ内容に合わせて適切な方を使用しましょう。
ただし事業を引き継ぐため相手と交渉したり、仲介会社に相談する際は、資産や権利の引き継ぎが発生するため基本的に事業継承が使われます。そのため他者から事業を引き継ぎたいと考えているときは、事業継承を使う方が一般的だといえます。
事業承継と事業継承の使用シーンや具体例についてそれぞれ解説します。自分のケースではどちらを使用するべきなのかお悩みの方は、ぜひ参考にしてください。
事業承継は、以下のようなシーンで使われます。
・前院長が大切にしていた医療事業をそのまま承継する
・前事業者から経営監査に携わる役職を承継する
承継は事業そのものや理念、役職など形がないものを引き継ぐときに使うため、交渉や手続きではなく、引き継ぎ後の挨拶などで使う場合が多いです。事業において引き継ぐものが抽象的なため、事業の引き継ぎに際して自分の想いや考えを伝える際に使うことが適切だといえます。
継承の場合、以下のようなシーンで使われます。
・父からA病院の経営を継承する
・仲介会社に事業の継承先探しを相談する
事業継承は事業における資産や経営権など、形や紙面に残るものを引き継ぐときに使います。特に第三者とのM&A交渉などの場では、経営権や資産の引き継ぎについて具体的に交渉する場面が多いため、基本的には継承が多く使われます。
事業承継では事業そのものをはじめ、抽象的な内容を引き継ぐため、具体的に何を引き継ぐのかわからない方は多いのではないでしょうか。引き継ぐものとして代表的なものを、3つのポイントで解説します。
人や経営権、役職など、医療承継では事業を運営する役割そのものを引き継ぎます。基本的に人(人事権)や経営権は税法上の決まりではなく、従業員やほかの関係者との合意で決まります。
また経営において欠かせない設備運用や経営戦略の実行など、引き継いだ事業をどのように経営、運営していくかも、事業承継により次世代の事業者に引き継がれることが基本です。そのため引き継いだ経営権をもとに、どのようにより良い事業運営につなげるかが、重要なことだといえるでしょう。
会社の持つ資産も、事業承継により引き継がれます。
・事業の資産における著作権や特許権
・企業が保有する株式や債券など
経営権と同様、株式保有や財産権についても、事業承継により引き継がれます。特に財産権は事業の金銭的価値に直結するため、トラブルがないよう慎重に引き継ぐ内容を改めたうえで交渉を進めましょう。
特に医療承継の場合、不動産はもちろん医療設備も資産に含まれます。資産は引き継ぎに際して修繕費がかかる場合もあるため、買収や譲渡の場合は内容をよく確認のうえ適切な価格を算定することが重要です。
知的資産とは、事業者の経営理念や方針など、形のないものを指します。なかには特許や事業運営における人脈や顧客(患者)、取引先とのつながりも指し、その内容は非常に幅広いことがいえます。
権利や法律で縛れない抽象的なものが中心で、引き継がない選択を取ることも可能ではありますが、先代の理念や方針を大切にすることは非常に大切です。事業者によっては先代の考え方や大切にしていたことが事業の成功につながっていた場合もあるため、理念や人脈を大切にして、事業運営に反映させていく必要があります。
事業承継はタイミングによって2つの選択肢があります。事業の譲渡や売却を検討している方は、合わせて参考にしてください。
経営者が生前のうちに事業運営からリタイアして後継者に引き継ぐことには、さまざまなメリットがあります。
・経営者本人が後継者の教育に携われる
・余裕を持って経営者交代に関する手続きや準備を進められる
・リタイア後は仕事から離れて余裕のある生活を楽しめる
経営者が生前に事業を引き継げば、引き継ぎ業務に直接携われるため、誤解のないよう後継者に事業を託せます。事業の引き継ぎに関する膨大な手続きや申請、従業員や顧客への説明も、新旧事業者が協力して進められるでしょう。
また旧経営者は仕事を引き継いでリタイア後の生活を送れるため、事業者のライフスタイルを大切にするうえでも、生前に事業を引き継ぐことは有用です。
旧経営者の死後に、相続として事業を引き継ぐケースもあります。引き継ぎの内容や引き継ぎ相手が決まっていれば、従業員の理解も得やすく相続によりスムーズに事業を引き継げるでしょう。
ただし旧経営者が引き継ぎについて何も準備を進めていなかった場合、手続きや引き継ぎを慌ただしく進める必要があるため、注意が必要です。相続のタイミングで引き継ぐ場合であっても、生前から引き継ぎにおける具体的な内容や準備を進めておく必要があります。
事業承継の基本的な手順は以下の通りです。
・現状を把握し引き継ぎたい事業内容をまとめる
・後継者を誰にするか検討する
・仲介会社を交えて新旧事業者で交渉する
・事業の引き継ぎ計画を立てる
・事業承継の手続きを進める
事業承継では引き継ぎたい事業の内容を精査し、次の世代へ滞りなく事業を引き継ぐ準備から進めます。相手が見知った親族や知人であっても、引き継ぎには利権や資産も絡むため、仲介会社を利用して慎重に交渉しましょう。
引き継ぎ内容が決まったら、具体的な引き継ぎ計画や事業者交代における手続き準備を進めます。手続きや交渉の内容は誰に事業承継するかによって変わるため、相手別にポイントについてさらに詳しく解説します。
子や兄弟姉妹など、親族に事業を引き継ぐ場合、新旧事業者の連携が取りやすいため、引き継ぎがスムーズです。また親から子へ事業を引き継ぐケースは多いため、従業員の理解を得やすく、承継後のトラブルが少ないことも魅力の1つです。
ただし近年では親族に事業を継承したくてもできないケースも増えつつあります。特に医療承継の場合、親族が必ずしも医師になるわけではないこと、医師になっても専門分野が異なることから、親族に承継できず、事業の受け渡しに難航している医師もいます。
従業員や知人など、親族以外に承継する場合もあります。親族外への承継であれば、承継相手の選択肢が広く、資質や手腕を重視して誰に事業を引き継ぐか選べることが魅力です。
特に経営幹部や従業員として以前から経営に携わっていた人物であれば、ほかの従業員の理解も得やすいでしょう。ただし親族外承継の場合、基本的には買収など金銭の受け渡しを前提として承継を進める必要があるため、広い選択肢から承継相手を探す必要があります。
M&Aとは、企業や法人同士の合併買収を指します。医療法人の場合、後継者がいない医療法人をほかの医療法人が買収することで、事業承継が完結することが基本の流れです。
特に近年では法人のM&Aが増えており、専門の仲介会社を利用すれば相手探しから交渉のサポートまで幅広く支援を受けられます。ただし買収と聞くと不安を感じる従業員や顧客も多いため、M&Aは慎重に、相手探しから引き継ぎを進めて従業員の雇用や顧客を守ることが大切です。
事業承継を成功させるポイントとして、信頼して任せられる仲介会社を利用することが挙げられます。事業承継やM&Aに関連する仲介会社を利用すれば、承継相手の紹介から交渉の仲介、事業承継に関する手続きサポートまでまとめて任せられます。
事業承継をトラブルなく進めるため非常に大切なことでもあるため、事業承継が気になっている方は、ぜひ承継内容に合った仲介会社をご利用ください。
事業継承と事業承継の違いは、それぞれ引き継ぐ内容に違いがあります。
・事業承継:事業そのものや企業理念、前事業者の思想を引き継ぐこと
・事業継承:事業に使う資産や特権、義務を引き継ぐこと
いずれも事業の引き継ぎに際して必要な物事を指すため、引き継ぎたい内容に合わせて正しい言葉を使用しましょう。また事業の引き継ぎを検討しているのであれば、専門の仲介会社に相談することがおすすめです。
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