診療報酬改定による高齢者の病院離れや医師・看護師といった医療従事者の人手不足など、深刻な問題を抱えている医療業界。経営不振により、休廃業せざるを得ない医療法人や病院が増えています。今後も休廃業が増えることが予想される昨今、医療業界で注目されているのが医療法人・病院M&Aです。
今回は、医療法人・病院M&Aにスポットを当て、医療法人・病院のM&Aの特徴やスキーム、成功させるポイントについて解説します。
医療法人・病院におけるM&Aの特徴は、オーナーや理事長、院長といった経営陣の合意がないと合併買収できない点です。医療法人や病院は事業会社と違い株式を発行していません。医療法人・病院のM&Aは、売り手と買い手、それぞれ同意のうえで行われます。
また、医療法人・病院のM&Aは、医療分野に関する専門的な知識が求められるのも大きな特徴のひとつです。
医療法人・病院におけるM&Aの市場規模は、年々増加傾向にあります。医療業界では、後継者不足や医師・看護師の人手不足などが深刻化しているのが現状です。2022年10月1日には診療医療報酬の改定が施行され、75歳以上の後期高齢者の医療機関窓口負担が原則2割とすることが決まりました。
診療医療報酬の改定により、医療機関にかかる高齢者の数が激減。高齢者の医療離れは病院経営にも大きな影響を及ぼしており、赤字経営により廃業に追い込まれる病院も少なくありません。病院間の競争に勝ち抜くため、経営戦略のひとつとしてM&Aを行うケースも増えています。
M&Aを行うにはデューデリジェンスや書類の用意といった事前準備に時間がかかりますが、医療法人・病院だけでなく従業員や地域住民にとっても大きなメリットがあります。
医療法人・病院がM&Aを行うメリットのひとつが、休廃業や解散を避けられるという点。2021年に休廃業・解散した医療機関の数は倒産の17.2倍※となっており、医療機関の経営不振は深刻な問題となっています。(※出典:医療機関の休廃業・解散動向調査(2021年))
2022年時点における全国の病院・診療所・歯科医院数は50,000軒以上にのぼり、コンビニエンスストア数を大きく上回っている状況です。新型コロナウイルス感染症の影響で新たな設備の拡充や人材・病床数確保などが追い討ちをかけており、廃業を強いられる医療機関が相次いでいます。M&Aを行うことで、地域医療や患者を守ることにもつながります。
医療法人や病院の経営を継続できれば、一緒に働いてきたスタッフとその家族の生活を守ることができます。廃院した場合は当然、医師や看護師、薬剤師といった医療従事者を解雇しなければなりません。
ちなみに、出資持分譲渡なら、既存スタッフの雇用契約を引き継ぐことが可能です。出資持分譲渡については、後ほど詳しく解説します。
大手医療法人によるM&Aが実現すれば、資金が潤沢になり最新医療設備の導入や事業・エリア拡大がスムーズになります。
また、医師や看護師、理学療法士といった十分な医療従事者の人材確保が可能。患者のニーズに合わせた人材を配置でき、地域に根差した医療サービスを提供できるようになります。
既存の医師や看護師の雇用をそのまま引き継ぐカタチになり、慢性的な人手不足の解決に役立ちます。また、優秀な医師・看護師を確保できるため、採用コストがかかりません。
また、新入社員の研修や育成にかかる時間・労力をカットでき、より価値の高い業務にリソースを割けるようになります。
医療法人・病院のM&Aのスキーム(譲渡の方法)は、大きくわけて「合併」「事業譲渡」「出資持分譲渡」の3つがあります。ここからは、それぞれの具体的な内容について詳しく見ていきましょう。
合併は、その名の通り2つ以上の医療法人・病院を1つに統合するというものです。医療法人・病院のM&Aにおいてもっともメジャーな方法です。合併には、会社の権利・義務を合併先の医療法人に存続させる「吸収合併」と合併した医療法人とは別に新会社を新しく設立する「新設合併」の2種類があります。
事業譲渡とは、医療法人や病院が行う事業の一部を譲り渡すこと。譲渡の対象となる範囲を売り手側と買い手側で話し合った上で決められます。たとえば、病院と介護福祉施設を運営している病院が、業績がイマイチ上がらない一方の事業を譲るというケースです。
資本金やスタッフの雇用契約といった、売り手である医療法人のすべての権利・義務が買い手に引き継がれます。合併や事業譲渡など、ほかのスキームに比べて手続きがスムーズです。
保健所や税務署、法務局への届出が完了すれば診察できます。医師や看護師、薬剤師といったスタッフの雇用が守られるため、出資持分譲渡を採用する医療法人・病院が多い傾向です。
先ほど紹介した「合併」「事業譲渡」「出資持分譲渡」を経営戦略のひとつに活用している医療法人や病院が増えています。ここからは、実際にM&Aを活用し経営の立て直しに成功している事例を2つ紹介しましょう。
2017年4月1日、横浜市神奈川区にある横浜逓信病院が社会福祉法人恩賜財団済生会グループに譲渡されました。横浜逓信病院は、日本郵政株式会社が運営していた病院です。改修工事を経て2018年2月、リハビリテーション病院として新しく生まれ変わり、地域のニーズに応じた医療サービスを提供しています。
NTT東日本は2016年9月、NTT東日本東北病院を東北医科薬科大学に譲渡しました。2011年3月に起こった東日本大震災により、医師不足が深刻な問題となっていた東北エリア。東日本大震災の復興支援、地域医療の強化や医師不足の解決を目的としています。
2016年4月1日には国内で37年ぶりとなる医学部を新設。東北医科薬科大学に名称を変更し、地域に貢献できる医師の育成に取り組んでいます。
個人で経営している病院やクリニックのM&Aを行う際に気をつけたいのが、許認可の引き継ぎです。個人経営の病院・クリニックは、個別に資産を売却することから許認可は引き継がれません。
許認可が滞り引き継ぎがうまくいかなくなると、スタッフの雇用や診察開始時期にもズレが生じてしまいます。引き継ぎが完了する日から逆算してスケジュールを立て、許認可の取得に遅れが出ないようにしましょう。
M&Aを検討する際は、売却金額や対象範囲を忘れずに確認しておきましょう。お互いの希望条件や売却金額、譲渡の範囲など優先順位を細かく決めておけば、希望の条件に合った医療法人・病院を見つけやすくなります。
役員へは基本合意締結前、財務経理や現場責任者へは基本合意締結後、他の社員へはクロージング後(最終契約の締結後)に話すのが良いでしょう。タイミングを誤ると、優秀な人材が辞めてしまう可能性があります。M&Aを行うことを報告する際、社員に疑問や不安な気持ちを残さないようできるだけ質問に答えるようにしましょう。
M&Aを検討するうえで悩むのが、医療M&A仲介業者選びです。信頼できる仲介業者を見つけることが、M&A成功のポイントといっても過言ではありません。
まずは、事業承継や成長戦略に関するM&Aセミナーに参加して情報収集を行います。セミナー終了後、アドバイザーに相談してみると良いでしょう。
たとえば「医師や看護師の離職が続いて採用活動がうまくいかない」「老朽化による修繕工事・設備投資などで資金状況に不安がある」など、何でも構いません。専門家からのアドバイスは、仲介業者選びの判断材料となります。
M&Aのメリットや成功させるポイント、過去の事例などを参考に自院に一番合ったやり方を慎重に検討します。M&Aについては、MMCコンサルティングにお任せください。
医療法人・病院M&Aは、医療業界が抱える後継者不足や経営の危機を打開する糸口になります。M&Aを行うことで、病院経営を存続しながらスタッフの雇用を守ることが可能です。
医療法人・病院M&Aは経験や専門知識が必要となるため、専門知識を持つアドバイザーに相談し良し悪しを判断しましょう。